極彩色の古代ギリシャ『古代ギリシャのリアル』

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青いエーゲ海を背に、白く美しい古代ギリシャの神々が佇む…のイメージだった「古代ギリシャ」。実際にはカラフルに彩色されていた。そんな神々を見てみたいっ!

アファイア神殿の西側破風、彩色再現( Bunte Götter 展、2004年、ミュンヘン)
アファイア神殿の西側破風、彩色再現( Bunte Götter 展、2004年、ミュンヘン)

引用元:アファイア神殿の西側破風、彩色再現( Bunte Götter 展、2004年、ミュンヘン) Marsyas CC-BY-SA-2.5

目次

『古代ギリシャのリアル』 

あまりに軽妙な語り口。

しかし、語り口が軽いからって内容がおちゃらけているとは限りません。

「もっとマジメな文体が良い」と感じる方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、もし食わず嫌いでお読みになっていないとしたら、とってももったいないです。

著者は、作家であり古代ギリシャ・ギリシャ神話研究家である藤村シシン氏です。

拝読していて、「ああ、本当に古代ギリシャや古代ギリシャ神話がお好きなんだなあ」と感動しました。

本当に詳しいひとって、難しい言葉を使わずに、初めて聞く人にもわかるように興味が持てるように説明してくれるんですよね。

しかも。

この後の「この本の目次」を見ていただくと、面白そうな話題がずらりと並んでいます。

今まで何となく気になっていた事柄も載っているのではないでしょうか。

それなら、読まないという選択肢はありません。

古代ギリシャのリアル
古代ギリシャのリアル
  • 藤村シシン(著) 
  • 出版社 ‏ : ‎実業之日本社
  • 発売日 ‏ : ‎ 2015/10/15
  • 単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 272ページ
  • ISBN-10 ‏ : ‎ 4408133620
  • ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4408133621

この本の目次

  • 第1章「古代ギリシャ」の復元
    • 1 漂白されたギリシャ
    • コラム① なぜ血や涙は「緑色」なのか?-古代ギリシャ人の色彩の世界
    • 2 「ギリシャ史」1000年の空白を超えて
    • コラム⓶ パルテノン神殿の七不思議-” 百足の宝物殿 ” から瓦礫の中のモスクへ
  • 第2章 ギリシャ神話の世界
    • 1 ギリシャ神話のリアル
    • 2 オリンポス十二神とその履歴書
    • コラム③ アポロンの神託・名(迷)回答集
    • コラム④ 古代ギリシャの地震予知と耐震技術
    • もっと知りたいギリシャ神話の謎 なぜこのレリーフでハブられている人がいるのか
    • もっと知りたいギリシャ神話の謎 なぜギリシャの神々はローマに入ると名前だけ変わるのか
    • コラム⑤ 愛の女神の恋愛事情
  • 第3章 古代ギリシャ人のメンタリティ
    • 1 労働観と人間性
    • 2 時間感覚と宗教観
    • コラム⑥ 古代ギリシャの夢占い
    • 3 愛と病、そして死と永遠
    • コラム⑦ 『ハレイオス・ポテールと賢者の石』~古代ギリシャ語訳版ハリー・ポッターを読む~

白じゃなくて極彩色!?

エルギン・マーブルと呼ばれる、古代ギリシャ・パルテノン神殿を飾っていた彫刻 紀元前5世紀 大英博物館蔵
エルギン・マーブルと呼ばれる、古代ギリシャ・パルテノン神殿を飾っていた彫刻 紀元前5世紀 大英博物館蔵

引用元:エルギン・マーブル Brian Jeffery Beggerly  CC-BY-2.0

静謐ともいえる空間に浮かぶ白い古代彫刻。

実は私は大英博物館のこのコーナーが大好きです。

初めて足を踏み入れた時、ホントに古代ギリシャに来たような錯覚を覚えました。

あああ、これを作った彫刻家が実際に生きていたんだね。

こんな襞なんてさあ、本物みたいでさあ…、もう感動して泣きそう。

すごいよね。数千年後の日本人の私が、こんな異国の地で大昔の人が作った彫刻を見てる…。

私の中の「古代ギリシャ彫刻」の印象って、この大英博物館のエルギン・マーブルなのです。

この記事を読んでくださっているあなたも、「古代ギリシャ」といえば白亜の神殿や汚れの無い白さが眩しいヴィーナス像のイメージではありませんでしたか?

私もそうでした。

それが…それが極彩色で彩られていたなんて…。

知った時の衝撃は忘れられません。

もうね、聞いただけでわくわくしちゃいましたよ!

著者の藤村氏も衝撃を受けられたと仰る、古代ギリシャ史研究の先生のお言葉がこちらです。

『ギリシャといえば、青い海、白亜の神殿!』なんてイメージは幻想だ。古代ギリシャ人は海をワイン色と表現する。そして古代ギリシャ語には元々『青』も『海』を表す単語もなかった。そして古代ギリシャの神殿は極彩色で彩色されていたから、元々白亜ではなかったんだ」

藤村シシン(著). 2015-10-21. 『古代ギリシャのリアル』. 実業之日本社. p.1.

極彩色!?どんな風に極彩色!?

って思いませんでした?

こんな感じのようです。

ミュンヘンのグリュプトテークで開催されたBunte Götter 展での色彩再現
ミュンヘンのグリュプトテークで開催されたBunte Götter 展での色彩再現

引用元:Bunte Götter 展での色彩再現 Photographed by MrArifnajafov, own work, 2012-03-24 CC-BY-SA-3.0

白黒ですが、本書1ページ の欄外に、絵と「極彩色の衣装をまとったギリシャ神話の英雄パリスが弓をひいている」との説明があります。

パリスってば、センス無し?それともオシャレ?サイケ?ハデハデ?

捉え方は様々かと。

「えー、白が良かった」との感想もお有りでしょう。

私は好き嫌いというより、古代ギリシャの人びとがこの色を選んだ理由に興味が湧きました。

何故、この黄色?この赤なのかと思いました。

そうすると第1章の中の「漂白されたギリシャ」という文言に目が行きます。

「ギリシャといえば、青い空、青い海、そして白亜の神殿」というイメージから、本来の「ブロンズ色の空、ワイン色の海、そしてカラフルな神殿」(p.18.)のイメージに塗り直す必要がありそうです。

では「ギリシャの神殿=白亜」のイメージは、それはいつ・誰によって刷り込まれたものだったのでしょうか。

この章では、なぜ「白亜」の神殿、「白く美しい」大理石像であったのか、わかりやすく解説されています。

1939年、私が荘厳さを感じた大英博物館のパルテノン神殿のフリーズに関する重大事件が発覚しました。

職員が、博物館のスポンサーに言われて、フリーズの表面に残された色を残らず削り取ってしまっていたというね…_| ̄|○。

おかげで再現不能となってしまったフリーズの元の姿。当時の人びとが見ていた姿を見たかったな…。

この出来事は、古代ギリシャの神殿は白でなくてはならない、静謐な白であった方が観客に受ける、という考えから来る破壊的行為でしたが、後年出版された『黒いアテナ』(マーティン・バーナル)に端を発する「歴史ねつ造問題」にまでこの章では言及されています。

アテナとは、神話に登場する「金髪の」処女神です。

西洋人が西洋の起源と考えていた古代ギリシャ文明が、実は「エジプト文明をはじめアフリカやアジアに起源があり、西洋文明の出発点は古代ギリシャではなく東洋に置くべき」とするのなら、アテナは今まで考えられてきたような白人女性ではなく、黒い肌をした女神だったのかもしれない。

漂白されたのは古代遺物だけでなく、歴史もなのか。

この第1章を読んで古代ギリシャ彫刻を観ると、それまでとは違うものが見えてくるのではないかと思います。

「えっ、あの彫刻ってほんとは色が塗られていたの?」と思って手にした一冊から、更に「西洋文明とは!?」「古代ギリシャとは!」というところにまで興味が及びます。

1000円台の投資で、またひとつ賢くなれそうです(・∀・)。

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【電子書籍版】古代ギリシャのリアル[ 藤村シシン ]

こちらの書籍にも2ページ分ですが、極彩色の神殿や古代彫刻の再現図が掲載されています。

Ancient Athens 3D 様による動画 “The Parthenon – 3D reconstruction ” です。3Dで見る古代のパルテノン神殿の再現。英語字幕付き、6分台の動画で、彩色された状態もわかりやすいかなと思います。

現地にすぐ行けなくてもオンラインなら気軽かも。

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古代ギリシャ人にとって血や涙は「緑色」と表現

「ワイン色のエーゲ海」「ワイン色の羊」「緑色にしたたる血と涙」「緑色に輝くはちみつや雨」他、古代ギリシャ人が使う色彩表現が載っています。

ワイン色のエーゲ海、なんて赤紫の夕焼けなんか浮かんできて、ロマンティックですねえ。

しかし、ワイン色の羊?緑色の血と涙って?

本書によると、古代ギリシャ語の「緑色」は、

豊かさやみずみずしさ、生命力を持つもの全般に使われます。朝露、涙、血、汗、手足などです。

藤村シシン(著). 2015-10-21. 『古代ギリシャのリアル』. 実業之日本社. p.5.

であり、「緑色に滴る血と涙」とは「生命力にあふれる血と涙」の意味。

そして勝手にボルドー色を想像していた「ワイン色のエーゲ海」や派手な赤紫色に染まった羊さんはそうではなく、

「紫色」は流れたり動いたりするものに使われます。だから古代ギリシャ人にとっては海や打ち寄せる波は紫色なのです。

藤村シシン(著). 2015-10-21. 『古代ギリシャのリアル』. 実業之日本社. p.5.

「ワイン色のエーゲ海」は「波が打ち寄せるエーゲ海」であり、「ワイン色の羊」は「動き回っている羊」ということでした。

面白いですね!

他にも「古代ギリシャ語には元々『青』も『海』を表す単語もなかった」とか、気になった方はぜひチェックしていただきたいです。

古代ギリシャ人の妻

もううろ覚えなのですが、大学時代にギリシャ哲学か何かの授業で、「古代アテナイの女性はほとんど外出せず、家事に専念。地位もあまり高くなかった」と聞いたことがあります。

もしかしたら、あれから研究が進み、もっといろいろなことが判っているかもしれません。

参考になる記事(ナショナル ジオグラフィック 2022年10月):本当は多様だった古代ギリシャ女性の生活、画一的な見方は誤解

古代女性の親子関係、友人関係、家事、恋愛、美容…。女性たちの楽しみは何だったのか。親子間の会話はどんなだった?

興味は尽きませんよね。

本書にもありますが、女性が自分の境遇をどう思っていたのか、残念ながら実際のところはわからないそうです。

何故なら「古代ギリシャの証言はほぼすべてが男性の書いたもので、男性側の意見しかないから」。

そんな中、「サラミスの海戦」で有名な将軍テミストクレスの言葉がありまして、

「ギリシャで一番強い男がこの俺だって?違うね。それは俺の息子さ。確かに、全ギリシャを指揮するのはこのアテナイ人で、そのアテナイ人を指揮するのはこの俺。だけどその俺に命令出してるのは俺のカミさん!でもって、そのカミさんは息子だから!息子が全ギリシャで最強なんだよッ!」

(プルタルコス『テミストクレスの生涯』18節15行目以下)

このエピソードから、テミストクレスが家庭内では奥さんの言うことをある程度聞いている姿が垣間見れるのです。

藤村シシン(著). 2015-10-21. 『古代ギリシャのリアル』. 実業之日本社. pp.244.-245.

面白いですよね(^^)。英雄よりカミさん、カミさんより自分の息子が最強ってww

藤村シシン様による口語訳がまた良いのですよね。

サラミスの海戦の英雄テミストクレス以上!「古代ギリシア最強の男」とは?

ギリシャ神話に詳しくなりたいけど、どの神様がどんな言動をしていたのか覚えきれない、という方にもこの本はお勧めです。

神様の履歴書について結構ボリュームを割いてくださっています。

主要な神様たちの言動リスト(?)はかなり詳細に書かれているのではないでしょうか。

ただ二点、個人的に残念な点があります。

ひとつ目。それは、できれば、使われている写真に「~美術館(博物館)蔵」とか、所蔵している美術館名が書いてあると嬉しかったなと。

これ観に行きたい!と思った時すぐに調べられるといいのになあ、と思いました。

ふたつ目は物足りなく終わってしまったところです。物足りないというのは語弊があるかもしれませんね。

面白かったので、「これで終わり?続編は?(゚Д゚;)」と足りなく感じたということです。

また新しい考察ものとか、出してくださることを楽しみにしています。

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